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見聞語録_し_上達論


番号 語録 文献

001

■小さな対象だけを扱う

「一番よいのは、対象を十か十二くらいの小さな個々の詩に分けて描くことだろうね。(中略)こんな風にこまぎに分けていけば、仕事は楽になるし、対象の様々な面の特徴をずっとよく表現できるね。その逆に、大きな全体を丸ごと包括的に掴もうとすると、必ず厄介なことになって、完璧なものなんて、まずで出来っこないさ。」

…このやり方は、小さな達成を一つ一つを積み上げて大きな成果へつなげるという好循環を生み出すだけでなく、その都度次は何をすればいいかというステップも自然に見えてくるのが素晴らしい。

もっとも、思想や意識のスケールそのものが小さく纏まってしまうとつまらない。思索のスケールは大きく持ち、集中する対象は絞り込んでいくという技を身に付けたい。

『座右のゲーテ』

齋藤 孝

※『ゲーテとの対話 上』p83

エッカーマン

002

■自分を限定する

「結局、最も偉大な技術とは、自分を限定し、他から隔離するものをいうのだ。」

ゲーテの教えを受けて、エッカーマンも「そもそも、洞察と活動とは、しっかり区別されなければならない」と言っている。

「ゲーテにしても、多面的な洞察を得ようと努めたが、活動面では、ただ一つのことに自分を限定した。(中略)すなわち、ドイツ語で書くという技術である。」とまとめているほどだ。

表現する対象は、狭くても深ければ問題はないが、吸収の対象までを狭めてしまうのは愚かなことだ。そうしたことは、活動、表現面と吸収面を区別していないために起こる。

詰まるところ、自分が本当に使いこなせる技術、つまり活動面で他者に対しても通用する技術を何か確立すべきである。しかもその技は、他の人と決定的に違うレベルに達していなければならない。

『座右のゲーテ』

齋藤 孝

※『ゲーテとの対話 上』p197

エッカーマン

003

■実際に応用したものしか残らない

 「色々研究してみたところで、結局実際に応用したものしか、頭に残らないからな」

ゲーテによれば、何かを勉強する場合、やみくもに試してみたところで身に付かない。「よし、これを仕事にしよう」と実際的に考えて覚えようとした時にやっとものになる。「これをやるんだ」という気構えが前提になければ無意味だ。少なくともエッカーマンはそのつもりで聞いている。最初から劇にするつもりで取り組んでいたら、古代史も近代史ももっと自分の中に残っているはずなのに、と残念がっている。

ゲーテには、常に学びを作品化するという頭がある。逆に言えば、作品にする、仕事にするという意思抜きの勉強などしない。それが身に付けるコツだと言う。

『座右のゲーテ』

齋藤 孝

※『ゲーテとの対話 上』p108

エッカーマン

004

■最高を知る

「趣味というのは、中級品ではなく、最も優秀なものに接することによってのみ作られるからなのだ。だから、最高の作品しか君には見せない。君が、自分の趣味をちゃんと確立すれば、他のものを判定する尺度を持ったことになり、他のものを過大でなく、正当に評価するようになるだろう。」

最高峰が分かれば、後はそこから相対的に位置付けていけばいい。

センスを磨くために接すべき一番いいものとして、ゲーテは「古典」を挙げる。それによって自分の趣味を確立すれば、ものを判定するきちんとした尺度ができるというわけだ。これをゲーテは言い替えて、「相場を知るのが大事だ」とも言っている。

『座右のゲーテ』

齋藤 孝

※『ゲーテとの対話 上』p119

エッカーマン

005

■独学は非難すべきもの

「何もかも独学で覚えたというのは、褒めるべきものとは言えず、むしろ非難すべきことなのだ。」

「才能ある人が生まれるとすれば、それはしたい放題にさせておいてよいはずはなく、立派な大家について腕を磨いて相当なものになる必要があるからだよ。」

独学で褒められるべきはその意欲だけである、才能のある人は、大家について修練した方がはるかにいいのだと言う。あのモーツァルトでさえ大家について勉強したのだから、という皮肉を忘れないところがゲーテらしい。

『座右のゲーテ』

齋藤 孝

※『ゲーテとの対話 上』p237

エッカーマン

006

■使い尽くせない資本を作る

「重要なことは、決して使い尽くせない資本を作ることだ」

最高のものを知れというアドバイスにもあったように、一番いいものに取り掛かっておくと、それは一生の資本になって自分を豊かにする。これがゲーテの一貫した主張なのである。…なぜなら「イギリスの文学は一番レベルが高い。我々ドイツ人自身の文学も、大体はイギリス文学が源流になっている。バイロンやウォルター・スコット、シェークスピア、ああいう最高のものを自分のものにしてしまったら、それは決して使い尽くすことはないのだ。」

「この世において、画期的なことをするためには、周知のとおり、二つのことが肝要だ。第一に、頭がいいこと、第二に、大きな遺産を受け継ぐことだ」とゲーテは言う。「大きな遺産」というのは、別に金銭的なものを指しているわけではない。…つまり、自分は何を受け継ぐかという意識が問題である。何かを継承するにあたって、自分はどういう系譜に属しているかを考えること。私はこれを「系譜意識」と呼んでいる。

普段から言葉の端々にゲーテの言葉を引用できるようになると、それはまさにゲーテという遺産を受け継いだことになる。…憧れを持ってある人を徹底的に勉強することで、その人を資本にしていくことができるのだ。

『座右のゲーテ』

齋藤 孝

※『ゲーテとの対話 上』p162

エッカーマン

007

■身近な人から学ぶ必要はない

「生まれが同時代、仕事が同業、といった身近な人から学ぶ必要はない。何世紀も不変の価値、不変の名声を保ってきた作品を持つ過去の偉大な人物にこそ学ぶことだ。こんなことを言わなくても、現に優れた天分に恵まれた人なら、心の中でその必要を感じるだろうし、逆に偉大な先人と交わりたいという欲求こそ、高度な資質のある証拠なのだ。モリエールを学ぶのもいい。シェークスピアに学ぶのもいい。けれども、何よりもまず、古代ギリシャ人に、一にも二にもギリシャ人に学ぶべきだよ。」

健康な力強さを持っている古代のものを手本にするというゲーテの立場は見習うべきことだ。歴史はうまさの基準の判定装置である。本当のうまさを継ぐには、歴史的に確定された美から学ぶことだ。

『座右のゲーテ』

齋藤 孝

※『ゲーテとの対話 下』p126

エッカーマン